東京家庭裁判所 昭和42年(家)13130号 審判 1968年6月03日
申立人 大沢清子(仮名)
相手方 大沢俊光(仮名)
主文
相手方は申立人に対し、婚姻から生ずる費用の分担として、金二六万七、八〇〇円を本審判確定と同時に、並びに昭和四三年六月以降別居状態が解消するに至るまで、毎月金一万五、〇〇〇円宛を各月末日限り、いずれも申立人住所に送金して支払え。
相手方は申立人に対し、本審判が確定するに至るまで、昭和四三年六月以降毎月金一万五、〇〇〇円宛各月末日限り、申立人住所に送金して支払え。
理由
一、本件記録添付の戸籍謄本、家庭裁判所調査官永井輝男の調査報告書並びに申立人および相手方に対する各審問の結果によれば、次の事実が認められる。
1 申立人と相手方とは、申立外弁護士秋田経藏の紹介により、昭和三八年三月見合し、約一年間交際した後昭和三九年四月一六日挙式のうえ同棲し、同年七月一日正式に婚姻届出を了し、その間に昭和四〇年一月一四日長女夏子を儲けたこと、
2 相手方は、その父大沢金之が経営する○○販売業の手伝をしているもので、申立人は、挙式後相手方の両親方店舗兼住宅において相手方と同棲したものの、申立人と相手方の母との折合が悪いため、長女出生後昭和四〇年五月頃から、申立人と相手方とは相手方の両親と別居し、船橋市○○町○丁目○○○番地春山荘に居住し、相手方は同所から両親方に通勤することとなつたのであるが、夫婦の仲が次第に円満を欠き、同年一二月一七日夫婦喧嘩のうえ、相手方は家を出て、両親の許に戻り、以来申立人と相手方とは別居状態になり、申立人も昭和四二年六月頃長女を連れて肩書住所である両親の許に戻り、以来同所に居住していること、
3 相手方は、昭和四一年一月六日千葉家庭裁判所に対し申立人との離婚を求める調停申立をしたのであるが、申立人は離婚される理由はないと主張し、相手方が両親と別居し再び申立人の許に戻つて同居することを求め、結局調停は、同年一二月不成立に帰し、相手方は昭和四二年四月二七日東京地方裁判所に申立人との離婚を求める訴訟を提起し、右訴訟は現に同裁判所に係属審理中である(同裁判所昭和四二年(タ)第一三六号)こと、
4 申立人は昭和四一年八月一日に、千葉家庭裁判所に、相手方が申立人に対し婚姻から生ずる費用の分担金(申立人の生活費と長女の養育費)として毎月最低金三万円を支払うことを求める調停申立(同裁判所昭和四一年(家イ)第四四二号)をなしたのであるが、相手方は、長女の養育費だけなら支払うが、申立人の生活費は支払う意思がないと主張し、右調停も昭和四一年一一月六日に不成立に帰し、同日審判手続に移行し(同裁判所昭和四一年(家)第一二五二号)、その後同裁判所がなした右審判事件を東京家庭裁判所に移送する旨の審判が昭和四二年一二月一〇日確定し、同年一二月二二日本件が当裁判所に係属することになつたこと。
5 相手方は、申立人と別居以後婚姻から生ずる費用の分担金として、申立人に対し昭和四一年一月に金三万円、同年二月および三月にいずれも金一万七、〇〇〇円、同年六月に金一万円、同年一一月に金一万円を送金し、その後同年一二月以降毎月金五、〇〇〇円宛を送金していること、
二、ところで、前記認定の如く、申立人と相手方とは不和になり、別居しているのであるが、かく申立人と相手方とが不和になり別居するに至つた事情につき、申立人は、相手方は、相手方の母が申立人のすることなすことすべて気に入らず申立人と相手方とが相手方の両親と別居したのも、相手方の母が希望したためであり、また相手方の母はかねてから相手方に申立人と離婚することをすすめていたため申立人には何ら離婚を求められるような落度がないのに、たまたま些細なことで申立人と相手方とがいさかいを起した際、相手方は母のすすめに同調して、申立人と離婚する気になり、従前の同居先を立ち去り、申立人の許に戻らず申立人に色々と落度があるように虚偽の事実を並べ立てて、調停を申し立て、はては訴訟まで起すに至つたものであつて、相手方さえ、両親と別居して、申立人と同居する気になれば、何時でも和合できるのであつて、別居は全く相手方の責に帰すべきものであると主張するのに対し、相手方は、申立人は我がままで両親と同居するという条件で婚姻したのに、婚姻後四箇月位すると、両親と別居したいといい出し、やむなく、両親と別居したところ、申立人は相手方より朝早く起きたことがなく、長女が夜泣きしても放置する有様で、夫や子供の面倒をみることさえ十分に出来ないうえ、住所の近くに居住する相手方の叔母(父の妹)が、来て色々と申立人に家事のことを教えようとすると、申立人は叔母が余けいなことに干渉すると怒り出す始末であり、昭和四一年一二月一七日に相手方は申立人のボタン付けがまずいので注意したところ、申立人は相手方に対し「貴方には愛情がない、子供がいるためやむをえず一諸にいるのだ」といい出すに至つたので、相手方としても、もはや申立人とは夫婦としてともに生活することができないと考え、離婚を決意して、別居するに至つたので、別居は全く申立人の責に帰すべきものであり、したがつて、相手方は申立人の生活費を負担すべきいわれがない、と抗争しているのであるが、申立人と相手方とが相手方の両親と別居したのが、申立人の主張する如く、相手方の母が希望したためか、それとも相手方の主張する如く、申立人が希望したためかは別として、申立人と相手方の母との折合がうまく行かなかつたため、申立人と相手方とは相手方の両親と別居したことは間違いのないことであり、たとえ、夫の両親と同居する条件で婚姻したとしても、妻と夫の両親との折合が悪い場合は、夫の両親と別居することはやむをえないことであり、仮に相手方の主張するように、申立人が相手方の両親と別居したいといい出したからといつて、これをもつて、申立人が我がままということはできないし、また、両親と別居後申立人が家事の遂行について十分でない点はあつたであろうが、相手方の主張する程夫や子供の面倒をみなかつたものとは考えられず、むしろ、もともと相手方の両親との同居を希望している相手方が些細なことで、申立人といさかいを生ずることが重なつたため、申立人と十分話し合い、和合の努力を尽すよりも、次第に、相手方が申立人と離婚することを希望している相手方の母の影響を受けて、申立人と離婚することを決意するようになつたものと見られ、これらの点からすると、申立人と相手方とが別居するに至つたのには、それぞれ責任があるが、どちらかというと、十分に申立人との和合の努力をせず早急に離婚の決意をして同居先から両親の許に戻つた相手方に主要な責任があると認めざるをえない。したがつて、相手方は申立人に対し、別居した昭和四〇年一二月一七日以降別居状態の解消するに至るまで、婚姻から生ずる費用として申立人の生活費およびその監護する長女の養育費を分担しなければならないのである。
三、そこで、相手方が申立人に対し、婚姻から生ずる費用として分担すべき額を如何に定めるべきかについて検討する。
申立人は、別居以来、幼い長女を抱えて働くこともできず、無収入であり、実父母の許に同居し、相手方からの毎月五、〇〇〇円の送金では生活できず、実父の補助で辛じて生活している有様であり、申立人と長女との生活を維持するためには毎月最低金三万円を要し、相手方は父の○○販売を手伝つているといつても、実際は老齢で病身の父に代わつて一切の営業をとりしきつているので、毎月金三万円を分担することは可能であると主張するのに対し、相手方は、営業主は父であり、自分は、給料として毎月金二万円の収入があるのみで、毎月五、〇〇〇円程度しか分担の能力がなく、ただ父が三、〇〇〇円は補助してやるといつているので、毎月合計八、〇〇〇円が、分担しうる最大限の額であると主張しているのであつて、このような本件においては、別紙の労働科学研究所編「総合消費単位表」の如き一般的な統計に準拠して申立人、相手方、長女の消費単位を算定して、婚姻から生ずる費用の分担額を決定するのが公正、かつ、合理的であると思料する。
まず、消費単位について考察するに、申立人は六〇歳未満の主婦であるので、八〇に、相手方は、六〇歳未満の軽作業に従事する男子として一〇〇に、長女は、一歳から三歳の子として四〇に、それぞれ該当する。
次に、相手方の毎月の平均月収であるが、相手方の提出した相手方父大沢金之の昭和四二年度所得税の確定申告書の写しによれば、相手方は父の営業(○○販売業)の事業専従者として、毎月金二万円(税込)の給与をえていることが認められるが、相手方審問の結果によれば、申立人と相手方とが、相手方の両親と別居して生活していた当時においては、生活費として毎月金三万六、〇〇〇円(相手方および申立人はそれぞれ金一万八、〇〇〇円の給与をえていた。これは、それぞれ事業専従者として毎月税込金二万円の給与をえ、税金等を控除した残金が一万八、〇〇〇円であつたものと認められる)を相手方父から支給されていたことが認められ、右確定申告書の写しによつて認められる相手方父の営業収益の状況からみて、別居以後現在までおよび現在以後においてもこの程度の金額の支出は十分可能であると考えられるので、本件の婚姻から生ずる費用の分担額を決める基礎として、相手方の月収を金三万六、〇〇〇円と認定して計算すべきものである。
そこで、この相手方の月収金三万六、〇〇〇円から、相手方の必要職業費として二割にあたる七、二〇〇円を控除した額金二万八、八〇〇円を基礎として、申立人および長女、相手方の所要生活費を前記各人別消費単位によつて算定すると、
イ 申立人および長女の所要生活費は、
28,800円×(80+40)/(100+80+40) = 28,800円×6/11 = 15,700円
ロ 相手方の所要生活費は、
28,800円×100/(100+80+40) = 28,800円×5/11 = 13,100円
ということになり、これによると、相手方は申立人の生活費および長女の養育費として、毎月ほぼ約一万五、〇〇〇円を支払うのが相当であると認められる。
そこで、相手方は、申立人に対し、婚姻から生ずる費用の分担金として、別居した昭和四〇年一二月一七日以降別居状態の解消するに至るまで、毎月金一万五、〇〇〇円を支払うべきであり、したがつて相手方は申立人に対し既に期限の経過している昭和四〇年一二月分より昭和四三年五月分までの合計金四四万一、八〇〇円(15,000円×14/31+15,000円×12+15,000円×12+15,000円×5 = 6,800円+180,000円+180,000円+75,000円 = 441,800円)より、既に相手方において支払済である合計金一七万四、〇〇〇円(30,000円+17,000円×2+10,000円×2+5,000円×12+5,000円×5 = 30,000円+34,000円+20,000円+5,000円+60,000円+25,000円 = 174,000円)を控除した金二六万七、八〇〇円(なお、申立人は長女名義および申立人名義の預金合計金六万六、〇〇〇円を生活費として費消しているが、これは、別途離婚の際財産分与の問題として考慮すべきであるので、ここには斟酌しない)を本審判確定と同時に、また昭和四三年六月以降別居状態の解消するに至るまで毎月金一万五、〇〇〇円宛を各月末日限り、いずれも申立人住所に送金して支払うべきものと定める。
また、本審判は、その確定までに、相当の日時を要することが予想され、家事審判には、判決の場合の如く、仮執行の宣言を付することが認められていないので、とくに、当裁判所は(婚姻費用分担事件には仮の処分の規定はないが、この事件は協力扶助事件と同性質の事件であるので、同事件に関する家事審判規則第四六条、第九五条を類推適用する。)臨時に必要な処分として相手方は申立人に対し本審判が確定するに至るまで、昭和四三年六月以降、毎月金一万五、〇〇〇円宛各月末日限り、申立人住所に送金して支払うべきことを命ずる(この仮の処分命令は家事審判法一五条により、執行力ある債務名義と同一の効力を有することを付言する)こととする。
よつて主文のとおり審判する次第である。
(家事審判官 沼邊愛一)